優しい日差しの太陽

髪を撫でるように走る風

歌う鳥の声。

暖かい春の陽気に今年も花が咲き乱れる

日光種の村を見渡せるFlower Hill(フラワーヒル)へと足を運ぶのは日光種の(おさ)、リクトである。





第二章 青色の少女

拾った女の子



日光種の村は、四方が森と丘に囲まれた小さな村で、
村の中にはフラワーヒルと呼ばれる丘がある。
毎年何百種類もの花が咲くのでこの名で呼ばれていた。
日光種のお祭、フラワーフェスティバルの会場でもある。
フラワーヒルを越えると目的の家が見える。
斜面を登るリクトの足取りは、心なしか軽かった。
肩に巻いた布が風に揺れる。


他の種族と交流しだしてから、すっかり変った日光種達の服装。
リクトもその一人で、100年前とはずいぶんと様子が変わった。
自分の好きな薄い青色の服を身にまとい、
その上から前長である父のトレードマークだった黄緑色の縁の白のケープ、
そして、ちょっと濃い目の布を肩に巻いている。
裸足だった足は皮靴を履き、利き手の左手には皮の手袋。
一番大事なモノである長の証は、ペンダントは首から掛けている。

髪の毛も少し伸びた。
毛先だけ肩に届くほどに伸びた髪は、母譲りの卵色。
50年前くらいに突然なった、先だけ少し暗くなる髪質に驚いたが、
母の髪がそうであったことを写真で確認し、
親子の絆を大人になったもう一度再確認したわけである。


誰がいるわけでもない”家”に通い続けてもう幾年経つのか。
ただ、帰ってくるのかもわからない持ち主の帰りを待っていた。
毎日通っている道はもうリクトの散歩道となっている。

丘を下るとすぐに見える家、100年ほど前に消滅した日光種の少女、「ソレイル」の家だ。
家を確認して、いつものように迷いなく近づいていく。
いつもどおり何事もなく歩いて行くつもりだったが、視界の端に違和感を感じて顔を向ける。
まだ若い黄緑色した草原の中に何か暗いモノが見える気がする。


「……なんだあれ?」


日光種の長という立場もあるのか、好奇心があまりないリクト。
普段のリクトなら気にも留めず通りすぎるところだが、何故か異様にその存在が気になる。
次の瞬間、向きを変え違和感を感じる方へと足を進める。
自分でも珍しいなと口元を緩めながら対象を見た。

近づくにつれ、それが人型を象っていることに気付くと、驚いた顔をして速度を早める。
どこかの精霊が迷いこんだのだろうか。
土の精は暗い色をしていたなぁと思いながら傍らに辿りつくと、
どうも女の子らしいが土の精とは違って見える。
土の精の髪色は黄色や茶色など、しかしこの少女の髪は
近隣の精霊の中では見たことのない、澄んだ濃い青色だった。
いつから倒れていたのか目を閉じて仰向けになっている彼女は少し衰弱しているようだった。
そんな彼女を見ていると何かが(よぎ)る。
「……」
何処かであったことがあるのか?見覚えはないけど。
と考えたが、とりあえずこのままだと不味いだろとリクトは少女を抱き抱えた。


「幸いソレイルの家が近い。勝手に使うと後で怒られそうでもあるが、そうもいってられないしな」

『後で』と言ってもソレイルがいるわけではないので、怒られることは無いだろう。
ただ、もしソレイルがいたとしたら、怒られるかもしれない。

彼女がどこの誰であろうと、今は関係ない。
衰弱している子を助けるのが先決だ。
そう決めるとリクトはソレイルの家へ急いだ。





暖かい空気に漂って、良い香りが少女の鼻を擽る。
重い瞼を持ち上げると木の板で張られた天井が見えた。
原っぱで倒れてたはず…そう思いながら首を振って周りを見渡す。
顔を動かすことで濃い青色の髪の毛が小さく揺れる。
首あたりの髪だけくるっと外巻きなった髪型は、少女を幼く見せる。
服もその要因の一つだった。
凹凸の無い体に、さらに胸の下からスカートになっているワンピース。
色はやはり、近隣の精霊では見ることのない青色や黒を基調にした色であるが、重苦しい感じはしない。
幼く見えるものの、少女にとてもよく似合った服だった。

部屋は天井と壁は木の板が張られていて、
床は土を固めたようなレンガ色の硬そうな素材。
自分が今いるところはベッドのようで、サイドには布を張った木の椅子、
右を見ると小物が飾ってある出窓があることを少女は確認した。
この部屋に一つしかない出入口の扉は開いていて、そこからお腹を誘うような良い香りが漂ってきていた。
ふと、自分の身体の下の方からぐぅという音がする。
お腹が鳴ったようだ。
お腹の虫の鳴き声を確認したと同時に、床を歩く音がした。

少女は扉の方を見る。
現れたのはお盆を持ったリクトだった。
少女が起きているのを見て少し驚いたような顔をしたがすぐ微笑む。

「起きれたのか。よかった」
「……」
衰弱していたから起きれるか心配していたというリクトを少女は無言で見る。
見ているのは、卵黄色の髪の毛と目、そして長の証であるペンダント。
少女は小さく息を飲んだ。
そんな少女の様子には気付かず、リクトはベッドへ近づきナイトテーブルに持っていたお盆を置く。
お盆には蔓と葉で作られたお皿と葉っぱのスプーン、土の鍋が置かれている。
ベッドサイドに置いてあった椅子に座ると、少女に話しかける。


「気分はどうだ?」
ぐぅぅぅぅう

少女の変わりに少女のお腹が答える。
少女は慌ててお腹を押さえた。
頬を赤くして、リクトをちらりと見る。
そんな少女にお腹が空いてるなら大丈夫だなとリクトは笑う。

「名前は…?」
「…………わからない」

リクトはそうかと呟く。
記憶がないのか、元々名前のない種族なのか。

「……自分の種族とか、どこから来たかとかわかるか?」
「……」

少女は小さく首を振ると俯いた。
髪や服や手袋、靴まで全身青色の女の子。
日光種とは正反対の色だ。
まるで正反対に生きるという月光種で見ているような……
そこまで考えるとリクトは思考をやめる。
考えても本人がわからない限り仕方ないかと。

「記憶が戻る…というか自分の正体がわかるまで、ここにいるか?」
「…………ここってこの家?」
「いや、俺は家なしの子供を放っておけるほど非道じゃないよ」
リクトの顔色を伺うように恐る恐る問いかける少女を見てリクトは優しい顔をする。
「俺の家においで。広い家だから人が増えてもかまわない」
それを聞いて、少女の顔が緩む。
知らない土地で自分が誰かもわからないまま一人で暮らすなんてことは恐ろしいことだろう。
安心したように微笑んでありがとうと言った。


「スープ飲むか?」
「うん」


お腹が鳴っていたこともあり、よほどお腹が空いていたのか、
少女はスープをおかわりした。
よく食べる少女にリクトも安心して微笑む。

お腹がいっぱいになったのだろうか、
3杯目を食べ終わったところで、安心したのか少女は眠りについた。
その寝顔を見ていると、なんだか親になった気分のリクトだった。



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ようやくSの中身スタートという感じですね!
これから少女とリクトが楽しく(?)暮らします。


[08.07.16]