「……リクト?!」




テーマは「月光種」








ソレイルが振り返った先には
案の定よく見知っている顏があった。

名前はリクト。
日光種の長、リ−クの息子である。

リクトは呆れ半分でソレイルを見下ろしている。
「なんでここに…?」
ソレイルがそう言い終わる前にリクトは口を挟んだ。


「……『ソレイルが最近変だ』ってライイが心配してたぞ」


そう言ったリクト自身も心配そうな眼差しをソレイルに投げかける。
「私……変なの?」
目を伏せてソレイルは呟いた。
「……変というか……
 長、オレの親父から月光種の話聞いてから
 心ここに在らずって感じだからな…」

「………リクトは…
 リクトは月光種のこと気にならないの?」

私たちと入れ違いで他の種族が住んでるなんて気になるらないの?
とソレイルはリクトに問う。
こんなことを聞いても答えは自分の求めているものじゃない
とソレイルはわかっていた。
自分の求めている答えは村の掟とたがうもの、
そんな答えを長の息子であるリクトが答えるはずもない。

わかっていても聞きたかった。

しかし、以外にもリクトの口から出て来た言葉は
ソレイルの求めている答えだった。

「………気になるに決まってる。
 俺たちが『夜』になると消えてしまうのは
 月光種が俺たちの村で『夜』を生きてるからだ。
 ……なんて言われて気にならないわけない。
 でも……だからって気にしてても、いくら想像してても、
 俺たちは『夜』になる前には消えてしまうんだぞ。
 逢えるわけがないし、『夜』がどんなものかもわからない……」

リクトはちらりとソレイルを見た。
自分の気持ちを吐き出して
ソレイルが月光種のことを考えないように
説得しようと思っていただけだったのだが
異様に語ってしまい恥ずかしく思ったのだろう。

ソレイルはそんなリクトにすごく驚いたが
同時に自分のように思っている人もいるんだとわかって嬉しかった。

「ありがと、リクト」

ソレイルはそう言って微笑むと
何かを思い出したように呟いた。

「花束のテーマが決まったかも…」

リクトはソレイルの呟いきを聞いてホッとしたあと
ソレイルの背中を軽く押した。
「花束のテーマが決まったんだろ?……行ってこいよ」
ソレイルはリクトの言葉を聞くと
大きく頷き会場へ走って行った。










「テーマは………テーマは『月光種』です!」

リクトと別れたあと
花束を作り発表の舞台に上ったソレイルは
司会にテーマを聞かれて元気に答えた。
そんなソレイルの手には
黒い花の中に一本だけ黄色の花が混じっているという花束だった。

「私は『夜』も『月光種』も見たことはないから想像で作りました!
 小さい黄色の花が私の『月光種』のイメ ージです。
 『夜』の中で輝く種族…それが『月光種』だと思っています!」

ソレイルの説明が終わった後、会場は静まりかえった。
それもそのはずで、
見たこともないようなすごい色合いの花束が現れたと思ったら
作った女の子が触れてはいけないはずの『月光種』を持ち出してきたのだから。

そんな中ソレイルは満足そうな顔でその様子を見ていた。
皆に『夜』の存在、『月光種』の存在を忘れないで。ということを伝えたと思ったからであった。
フラワーカップという大舞台でするということは、そういうこと。

審査員達はそんなソレイルを知ってか知らないでか
訝しげな顔をしながら相談しあっている。
その様子からとても焦っているようだ。
人々の顔も驚きや焦りが混じっているように見える。
そんな様子を見かねてかソレイルは口を開いた。


「そんな顔しなくてもいいじゃない。
 皆は『夜』とか『月光種』のこと考えないの??
 『夜』を知りたくないの?気にならないの?
 私は気になるよ。
 でもそれも許してくれない掟がある!
 なんで?知りたいってことは良いことだよね?
 それに……気になって仕方ないんだもん!」


一気に言ったあと来賓の席にいた日光種の長、リークを見た。
リークはソレイルの発言に驚くこともせず、ソレイルを見ている。
ソレイルもリークを見続けている、何かを訴えるように……
リークはそんなソレイルを見てある決断を下した。

回りはさっきの静けさとはうってかわって騒がしくなった。
その中にはソレイルを批判する者が多かったが、肯定する者も少なからずいた。
そんな人々のそれぞれの思いの中、
リークは近くにいた息子、リクトに耳打ちしてその場を去った。


その様子を見ていたソレイルは
リークが帰っていったことに驚いていた。
ということはもちろん審査も無効。
それにリークが居なくなったことでフラワーカップが強制終了されることも考えられた。
日光種の世界で長は絶対。
それに刃向かったのだからソレイルはただではすまないかもしれない。


月光種や夜のこと話してくれたの、リーク様なのに……!


ソレイルの中でショックが巻き起こり始めた。
月光種や夜の話をしてくれたリークならわかってくれると思ったのに、という思いが駆け巡る。
そして、少し呆然としかけたソレイルだったが
先ほどのリクトの言葉を思い出し、
でも間違いは言ってないと思い返してしっかりと前を見据えた。



そんなソレイルにライイは驚いていた。
悩んでいると思っていたら夜のことだったのかと。
そして、いくら聞いても言ってくれなかったことに
信用されてなかったのかとショックも受けていた。

「でも……確かに言ってくれても受け止めなかったかも…
 いっつも私の意見押しちゃうし……
 聞いてあげれなくてごめんね、ソレイル…」

舞台上のソレイルを見ながら、ライイはそう呟いた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
その小さな言葉はちょうど近くを通ったリクトに聞こえた。
その言葉を聞いてリクトは小さい声でライイに返す。
「……そう思うなら、ちゃんと口でソレイルに言えよ…?
 ソレイルはわかってくれるから…」
リクトがいることに驚いたライイだったが
リクトの言葉に、涙を拭きながら小さい声で答えた。



ライイが答えたのを聞いた後、
リクトはすぐソレイルのもとへ向かった。
そして、舞台の近くまで来た瞬間叫んだ。

「ソレイル!……長が呼んでる行くぞ!」

ソレイルはその言葉を聞いて、弾かれたようにリクトの方を見て
その方向に向かって走り出した。



あっという間のことだったので、
会場の人々は何が起こったかよくわかっていない人が多かったが
フラワーカップの会場を抜けたところに長の家に向かって走っている二人の姿があった。