「うわぁ……すごい」


ソレイルの憂鬱













丘を降りたままの勢いで
ソレイルをフラワーカップの会場であるFlower Hill(フラワーヒル)まで引っ張って来た
ライイは肩で息をしている。
そんなライイを知ってか知らないでか
ソレイルはそんなライイの横で感嘆の声を上げた。
さすがにFlower Hill(フラワーヒル)と呼ばれるだけあって会場は見渡す限り花で覆われていて
そこに咲いている花の種類は数えきれるような数ではなかった。

咲いている花のすべては花束を作るための材料である。

そう思うといささか感動も薄れそうだが
さすがに何百、何千もの種類の花が咲いているのを見たら
誰だってすごいと思うだろう。
一体誰がどうやってこんなに花を植えて育てたのだろうか。
こんなに育つものだろうか。
と思うほどどの花も立派に咲き誇っていた。

感動しているソレイルを見て
嬉しくなったのかライイは自慢気に話す。

「当たり前よ!!何と言ってもここはFlower Hill(フラワーヒル)なんだから!
 このフラワーカップは日光種の村のすべての人が集まって来るから
 参加者も半端じゃないしね!」
「なんでライイが自慢気に話すのよ…」
「う……」
「それにそんなに説明口調で話さなくたって私は知ってるってば…」
「…あはははは。ごめんごめん。」

呆れながら言うソレイル。
そんなソレイルに謝るライイ。
回りでそんな二人を見ていた人はいつものことなのであえて口を挟まない。

「それにしても今日は特別に人が多いわね。
 去年ってこんなに人多かったけ?」
「確かにね…」

俯きながら答えるソレイル。
ライイと話しているのに月光種のことを考えてしまっていたのだった。

(さっきはフラワーカップのことの方が気になってたのに…?)

なぜ、こんなにも月光種のことが気になるのかわからないソレイル。
でも頭から離れていくことはない。

「……?ソレイル?」

そんなソレイルの様子に気が付いたのかライイが声をかける。

「……」
「……??ソレイル!!」
「え?」
「『え?』じゃないわよ!
 …どうしたの??今日は朝から変よ」
「…ううん。別に」

ライイの言葉にドキっとするソレイルだったが
月光種のことを話すわけにはいかないので話をそらす。

「そういえば私のエントリーナンバーって何番だったけ?」
「はぁ?!忘れたの?!」

いきなりの発言に驚くライイ。
しかもフラワーカップに出るというはずなのにエントリーナンバーを忘れたというのだ。

「出場しないつもりなの?せっかくエントリーしてるのに!」
「う〜ん、どっちでも…出なくてもいいや…」
「えぇっ?!!さっき出るって言っ…」
「出るとは言ってないよ、行くとは言ったけど…」
「う……そういえば……でもっ!」
「ライイも出るんでしょ?行って来たら?
 多分私はまだだし…。
 まだじゃなかったとしても別にいいしね」

エントリーナンバーを忘れたって言ったと思ったら今度は
フラワーカップに出場しなくてもいいというソレイルに驚きを隠せないライイ。
どうしたというのかさっぱりわからない。

(このまま私がいても…ソレイルに何言っても無理だよね…)

一体親友に何があったのか…
心配でたまらないがここはあえてソレイルの言う通りにすることにした。

(本当にどうしたんだろう…エントリーする時はすっごく楽しみって言ってたのに…
 (おさ)に月光種の話聞いてからなんか変よね……)


ライイが先に行った後、
ソレイルは会場が見渡せるFlower Hill(フラワーヒル)よりも高い丘へ登った。














今日は風が強い。
そのためソレイルの回りに咲く花は花吹雪になって舞いあがっている。
とても幻想的な景色だった。

しかし、ソレイルはそんな幻想的な景色に目もくれず月光種のことで頭がいっぱいだった。

(月光種……か…)

ソレイルの髪は風になびき
また花びらが舞い上がる。

(月光種の見る景色ってどんなのなんだろう?
 こんな花畑、見えるのかな?“夜”ってどんな色しているのかな?)


ドカッ

そんなことを考えているソレイルはいきなり頭に衝撃を感じた。
そうやら後ろから頭をどつかれたらしい。

「…っ、いったぁ」
「…お前な……何やってんだよ」
「!!」

後ろから聞こえた声。
ソレイルをどついた人物。
その声は聞きなれていたものだった。
瞬間、ソレイルは振り返る。


「……リクト?!」