今日もいつも通り日が昇る。

でもいつもと違う気がするのは

今日が特別な日だからか……




さよなら、そして初めまして。












「うー……」
ソレイルは起きるとぐうっと背中を伸ばした。
それはいつものソレイル家の風景。


何も変わらない。
いつも通り。


「さてと…朝ご飯朝ご飯ーっと!」
朝ご飯というより昼ご飯に近い。
どうやら今日は寝すぎたようだ。
そんな時もあるよと、いそいそと台所に向かうソレイル。
今日の朝は何にしようかと考えながら楽しそうに。

「今日は奮発して…
 木の実のクリームぬって、どんぐりパンを食べよう!!」
そう言うとパンを作る準備を始める。

どんぐりはたくさんある。たくさん作れるはずだ。
できるなら月光種にあったときに
渡そうかなーなんて思ってみながら。









「食べたーーー!
 おいしかった。ご馳走様でした」
きちんと挨拶を済ませると食器を片付けはじめる。
日はもう一番高いところまで昇っていた。


特別な日だというのに
別れの日であるのに

ソレイルの時の流れはとても穏やかで
ソレイルの心もとても和やかで
ソレイルは幸せいっぱいだった。



ふとソレイルが窓から空を見上げると
空がだんだん暗くなっているのに気付いた。

村が騒がしくなってきた。
皆も空の様子に気付いたのだ。
ソレイルの家の扉が音を立てた。


「リクト」
扉を開けると立っていたのはリクト。
息を切らしている。
「……ソレイル。暗くなってきた…!」
「うん……お別れだね」
「…っ…」
ソレイルがそう言うとリクトは黙り込む。

その瞬間高い声が響いた。
「そんなこと言わないでソレイルっ!!!」
「?!……ライイ」
前を見るとそこにはライイ。
「そうだよ。行くなよ、ソレイル!」
「寂しくなるだろ!行くなよ」
さらに声のした方を向くと村の人々。
日光種の村の皆がソレイルの家の周りに集まっていた。

「…皆…なんで…」
「……オレが呼んできた…全部言った、皆に」
「……リクト……」
それで息を切らしていたのだとソレイルはわかった。


ソレイルは自分一人で
皆に別れの挨拶もせず使命を果たす気だった。
さよならは寂しいから……と。

でも本当は言いたかった。
最後に皆に会いたかった。
でも自分で言うなんてできなかった。

リクトが言ってくれた…皆が来てくれた…



ソレイルは心底嬉しくて幸せで微笑んだ。
皆に満円の笑みを見せた。



太陽が月に飲み込まれていく。
闇が現れた。


「ソレイル行っちゃやだよ…
 ごめんね。わかってあげれなくて…
 でも私だってっ……気になってたよ!
 これからは聞くからなんだって聞くから!
 だからここに居てよ…っ!!
 また…遊ぼっ…よぉ……!」
泣きながらライイが叫ぶ。
ソレイルはそんなライイを見て優しく微笑んだ。
「…ありがとう。ライイ。
 でも……ううん。ありがとう!…すっごく嬉しいよ。私」
一層泣き声を上げるライイ。
ライイにだってわかっているどうしようもないことを。

でも行って欲しくない。
もっと一緒に居たい。

この気持ちは抑えられなかった。
ライイにつられて次々に泣き出す村人。
皆ソレイルとの別れを惜しんでだ。
こんなに嬉しいことはないとソレイルは思った。
目に涙が溜まっていくのがわかった。




太陽が半分になった。
日光種の村も半分以上はもうない…いや、闇に隠れてしまった。




ソレイルは微笑んでいた。
嬉しそうに笑っていた。
「皆大好き!」
そう言って……
「ソレイル!」
リクトがいきなり叫んだ。
ソレイルはビックリしてリクトを見る。


「オレ……ソレイルのこと好きだ……!」


顔を赤めて言うリクト。
そんなリクトを今まで見たことがあっただろうか。

「……ありがとう、リクト。
 私もリクトのこと好きだよ!」

嬉しそうにちょっと頬を染めて笑った。
恋愛感情かどうかなんてわからない。
けどリクトはその言葉が嬉しかった。

何よりも嬉しかった。
ずっと欲しかった言葉だったから。


「……オレ、ソレイルのこと忘れないからな!
 『消滅』した者のことは忘れると言われてるけど
 ……オレは……忘れない!」
「私も…っ忘れないよ!
 ソレイルのことっ!!!」
「俺達だって忘れないぜ!ソレイル!!
 だから安心しろっ!」
「おばちゃんも覚えてるよ!」


「みんな……ありがとう」


太陽はもう一息で全部飲み込まれる。
村人達はソレイルに言葉を送り続けた。

そして、リークも。
「いっておいで。ソレイル」
「ありがとう。リーク様!……皆行ってくるね!!!」
ソレイルがそう言った瞬間世界は真っ暗になった。
村人達は消えた。
ソレイルは消えなかった。



太陽が飲み込まれた。
世界は闇に包まれた。



ソレイルは初めて闇を見た。
……そして…

「初めまして」
「は、初めまして」



『月光種』を見た。



日光種とは正反対な色。
でもそれは闇の中にある光のようで
ソレイルが作った花束に雰囲気がとてもよく似ていた。

目の前に居る月光種はとても綺麗だった。
ソレイルとは正反対な大人びた綺麗な青黒い髪を持つ月光種。


「ねえ…後悔してる?
 月光種に会いたいと思ったこと…」
「ううん。ちっとも。
 ずっと会いたかったもの。会えて嬉しいよ」
ソレイルのきっぱりとした答えを聞くと月光種は微笑んだ。
「私もよ…アナタに会いたかったの」
「ありがとう」
ソレイルも微笑んだ。



二人が触れあう。
手を繋ぐ。

その瞬間。
二人は光になった。



綺麗な光。

誰にも見られることはないけれど。
誰にも見えないけれど綺麗な…









太陽が顔を出した。




fin.







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ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!!!
読んで良かったと思っていただければ本望です!
まだ番外編などで続いていくと思いますので、
続編「Soreil」に続いていきますのでこれからもよろしくお願いします!



あとがき
 ↑06/01/29 完結日の生の声(後書き) 08/05/01 ちょっと修正