世界に四季があるのは、
日光種や月光種……そして色々な精霊達がいるからである。

この話は、寒さの厳しい冬を越え
春の訪れを待つばかりの頃の話である。


花咲き乱れる春の日










春になるためには花の精がおおいに働かなくてはならない。
花の精は名前の通り花を司り、
花を咲かせたり育てたりする精霊だ。

そして、そんな花の精を助けるのが日光種。
太陽を司る……太陽を守っている種族である。

日光種達が動くのは花の精達に頼まれた時だけであった。
そのため何の連絡も来ない今年、
日光種達も春の訪れをただ待っていた。





「なんか今年は春が来るの遅くない?」
「確かに……」
日光種の村の近くにある丘の上で
二人の日光種が話しをしている。
年は15歳程度であり、二人ともまだ幼さの残る顔をしている。
一方は日光種の少女、ソレイル。
そしてもう一方は日光種の(おさ)の息子、リクトであった。
二人は今年の春が遅いことに疑問を抱いているようだ。

それもそのはずで、気温は大分上がってきているのに一向に花は咲かない。
本来ならこの時期のこの丘は花が咲き乱れて
強い風が吹いている今日なら、一面花吹雪になるはずなのだ。

二人でボーと丘の上から村を眺めるが
春らしい淡い、色鮮やかな感じには甚だ遠かった。
そんな光景を見て寂しいそうに二人は俯く。
しばらく二人の間に沈黙が訪れた。


「……ねぇ、リクト。森に行ってみない?」
森にならもしくは花が…と思ったのか
少女ソレイルは、少年の方リクトに提案する。
「…そうだな…」
丘でボーとしとくのも……とリクトはソレイルの提案に賛成を出した。

そうと決まったらさっそく二人は丘から近い森へ入っていった。
森といってもまだ春は訪れていないため
色鮮やかな花の色はなかった。
二人の期待は見事に裏切られた。
この森は春になるといつも綺麗な花を咲かし
日光種の女の子達を喜ばせている。
そんな光景は一つも見えない。
森に入ったのはいいがまた二人の間に沈黙が訪れた。



「――っ」
「…………?」

しばらく無言で歩いていたソレイルだったが
ふと、声が聞こえたような気がし顔を上げた。
ソレイルにつられてリクトも顔を上げる。
その瞬間、二人の顔が驚愕に変わる。


目の前には傷ついた花の精が倒れていた。




「……ん……?」
花の精を見つけた後、
どうしたらわからずにおろおろとしていたソレイルとリクトがだったが
とにかく水でも飲めばいいのでは…ということになり川を探すことになった。
なんとか川を見つけ水を飲ませたところで
花の精が目覚めたらしい。

二人はその声を聞いて喜ぶ。

「起きた?よかったぁ!」
目覚めた花の精を見てソレイルが安心して嬉しそうに言う。
リクトも安心したのか花の精を笑顔で見た。
「…あ、えっと……た、助けてくれてありがとうございます。
 僕はクィーと言います」
寝ている間に大分体力が回復したのか
自ら羽で浮かび、ぺこりとクィーはお辞儀をした。

「「……」」
「……?あの…?」
二人の返事がないのに慌てるクィー。
その瞬間ソレイルのキラキラした顔が目の前に現れた。

「え…?」
いきなりのことにドキマギするクィー。
“女の子”に慣れていないらしい。

「女の子だと思ってたんだけど、男の子だったんだ??
 私はソレイルだよー」
どうやら“女だと思っていたら男だった”ということが楽しかったようだ。
寝ている時はわからなかったが起きて声を聞いて気づいたらしい。
ソレイルは満円の笑みでクィーに近づく。
そんなソレイルにさらにクィーの顔は赤くなっていく。
リクトは二人を面白くなさそうに見ていた。


ソレイルの暴走が収まってきたところで
急にクィーが真剣な面持ちで話し出す。
クィーが倒れていた理由…おそらくそれは春が遅い理由にも関わっていることを
ソレイルとリクトは瞬時に理解した。

クィーの話によると
今、花の精霊間で病が発生しているらしく
それを治すためこの森の奥にある泉の水を汲みに
一番元気だった自分が来たのだが
自分も病にかかっていたらしく途中でふらふらになり倒れてしまったという。

「……そうか……だから花が咲かなかったんだな」
「うん……僕達が元気なら
 とっくに春は来ているはずだったんですけど…」
納得してはいるが少し寂しそうにリクトは言った。
それを聞いて申し訳なさそうにクィーが俯く。
そんなクィーを見てソレイルは励ます。
「病気になら誰でもかかるよ!
 たまたま時期が悪かっただけだって」
花粉症の人にとっては有難いことだったんだしねと笑うソレイル。
クィーはそのソレイルの言葉で少し救われた気がした。

「……実際、花の精のお前達の異変に気付かなかった俺達日光種も悪いしな」
リクトも続けて言う。
クィーは二人に微笑みながらありがとうございますというと歩きだした。


クィーは泉への道を知っているらしく順調に歩き続けることが出来た。
そして、日が傾きかけたころ目的の泉に辿り着いた。


「うっわー!綺麗ー!」
「すごいな……」
「すごいですね!」
その泉は沈みつつある太陽の光を受け、反射し、とても皇后しく壮大に見えた。
元々綺麗な泉ではあるのだろうが
歩き続けて疲れたのと、夕日の光のオレンジ色によって
三人の目にはとてつもなく綺麗なモノとして映っていた。

ついつい見入ってしまった三人を我に返したのは、泉の変化であった。

太陽が沈んでいくにつれ
泉の水量が明らかに減っているのである。
「…え?!水の量が減ってるよ!!」
ソレイルが慌てて叫ぶ。
「……どういうことだよ?このままじゃ水なくなるぞ!」
リクトも慌てて叫ぶ。
二人の叫びを聞いてクィーはハッとして
花の精の(おさ)の言っていたことを思い出した。


あの泉は 太陽が沈むと消えてしまう。
今日の太陽が沈んでしまったら しばらくは湧き出さないだろう。



「大変です!!早く汲まないと!!!」
“しばらく”がどのくらいかはわからなかったが花の精達の病は一刻を急ぐ。
しばらく、なんて待っている時間はなかった。
事実クィーも病にかかり始めている。

さっそくクィーの持っていたツボのような入れ物に水を汲もうとする三人。
しかしその時、無情にも太陽が沈んでしまい闇が現れた。
その瞬間クィーはもう駄目だと思った。
花の精は全滅してしまう。
そして、世界に春は訪れないと…

しかし暗くなっていくはずの空は逆に少し明るさを取り戻した。
クィーが驚いて顔を上げると
両手を広げて太陽を少し押し戻している二人の姿があった。
太陽が少し戻って夕日くらいの明るさになったことで
泉は消えかかっていた姿を取り戻していた。
よかったと微笑んでクィーは泉を見ていたが
二人が苦しそうなのに気付いた。
「ソレイル?!リクト?!」
慌ててクィーはソレイルとリクトに近づこうとする。

「だ、ダメ…!!!!」
その瞬間ソレイルはクィーに向かって叫ぶ。
ソレイルの後に続くように変わってリクトが言う。
「お…俺達の力じゃあんまり持たないんだ……
 だから…お前は早く泉の水を……!」
「…で、でも…」
つらそうな二人にクィーはおどおどする。
そんなクィーにリクトが激を飛ばす。
「でも、じゃない……
 花の精霊がいないと世界が困る…だろ!」
「それに…私達日光種は花を愛している種族だから…!!だから…!」
「……!!」
ソレイルとリクトの言葉を聞いて
クィーはおどおどしていた態度を無くし
しっかりと頷くと入れ物に泉の水を急いで入れだした。






「…ありがとう!ソレイル…リクト…」

もうしっかりと夜が来て月が光っている。
太陽の光の中でしか生きられない種族であるの二人の姿はもうない。
…それが日光種…
そんな話を花長(はなおさ)に聞いたことがある、とクィーは思っていた。
夜の間は消えてしまっているけど、太陽がまた昇れば現れる。
クィーはソレイルとリクトがいた所に向かって言う。

「…ソレイルとリクトが現れるまで…朝になるまで
 ここにずっといるわけにはいかないから、僕はもう花の村に帰るね。
 明日二人が目覚めたら、もう春は来てるって約束するよ!
 ……今度また会おうね!」
クィーはそれだけ言うと花の精の村に向かって走り出した。
森を抜けるくらいまで来たところで一度振り返って笑顔で笑うと
そのまま、まっすぐに帰っていった。




「わぁ…!リクトすごいよ!!」

「すごいな……」


目を覚ました二人の目に映ったのは
花が咲き乱れる日光種の村だった。

そんな春の日の1ページ…






fin.



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読んで下さりありがとうございました!!
最初はソレイルやリクトを出す気はなかったのですがなぜか主役に(笑)
でも、本編で書けなかったソレイル達の普段が書けて良かったと思います。
花の精クィーの話はまた他にも書きたいと思います。