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人魚姫






「お母さん。
 何かおもしろいお話知らない?」
「あたし、おかぁさんのしってるおはなしききたいの。」
兄妹らしい二人の子供が一人の女に向かって走っていく。
母親と思われる女は母親かと思うほど若く、
そして透き通る海のような綺麗な青髪をしていた。


「そうねぇ・・・何がいいかしら・・・」
女は微笑みながら話し出す。

子供達は女の傍らに座って
ワクワクしながら女の話を待っている。

「・・・人魚姫の話はしたことがあったかしら・・・?」
「あたし!それききたいっ!」
「そう・・・?」
妹が必死で叫ぶ。
それを見て女はクスリと笑った。

「・・・でも・・・人魚姫の話って
 お母さんが話したくないって言って
 前は話してくれなかったんだよ?」
「・・・」
いいの?というように
兄の方は首をかしげて聞く。

女は少し俯いて、
そうだったかしら・・・と呟いた。

「もう、そろそろ私もけりをつけないといけないわね・・・」
ポツリと言葉を落とすと女は顔を上げて微笑みゆっくりと話し出した。
女の呟きは兄妹には聞こえなかったらしい。
二人は嬉しそうに目を輝かせる。




「・・・この話は、ね。
 母さんしか知らない・・・お話なのよ・・・」

話が始まった。
人魚姫の悲しい話が・・・









海・・・
青い海・・・

この頃の海は海獣たちや魔物がたくさん住んでいて
人間達は海に近づくこともできませんでした。
海に入ろうものなら、
たちまち海獣や魔物に襲われてしまうからです。


そんな海に一人の人魚がいました。
透き通る海のような長い青い髪に真珠の髪飾りをつけた人魚でした。
その人魚はいつも一人でした。


海獣や魔物に襲われることはなくても
一緒に話したり行動したりすることはありませんでした。
その人魚はとても寂しかったけれど
誰もいないのでどうすることもできませんでした。



ある日、すごい嵐の日がありました。

海獣達は深い海に潜り、
波がおさまるのを待っていたのですが
人魚は一人、海面に出て岸の方を見ていました。
その時、人魚は一人の人間を見つけました。


その人間はまだ幼い男の子でした。
少年は嵐に、波に、揉まれて溺れていました。


岸で人間達が叫んでいますが海に入ることはできません。
海獣達がいなくても今は嵐です。
船を出すのはとても無理です。
人魚はそんな状況を一瞬で理解し少年を助けに行きました。


人魚はこの時から
何か今までになかった感情を覚え出したのです。

昔からあったような・・・
そんな大事な感情です。


人魚は少年を岸まで運びました。
しかし、少年は息をしていませんでした。

一つだけ少年を助ける方法がありました。
人魚の髪飾りの真珠を飲ませることです。
人魚の真珠はとても不思議な力がありました。
それを人魚は知っていたのです。

ただ、それを使うには大きな問題がありました。
それは真珠の力が強すぎるということです。

真珠を手に入れると
強大な力をもつことができることを知っていた海獣達は
いつも真珠を狙っていました。

でも、人魚から奪うことはできなかったのです。
人魚は知らず知らずのうちでしたが真珠を守っていたのです。
そして、海獣達が力を入れると被害に会うだろう人間達をも
守っていたことになるのです。


そんな大事な真珠をに人間にあげてしまったらどうなるのでしょう。


人間はとても弱い生き物です。
人間が真珠を持っているとわかると怪獣達はその人間を探すでしょう。
そして、その人間から容易く真珠を奪うことができるでしょう。
そうなってしまえば人間たちはあっという間に殺されてしまいます。

そんな大変な問題のことをすっかり忘れ
必死に男の子を助けようとした人魚は
自分の髪飾りの真珠の一つを取って、
その少年に飲ませました。



するとどうでしょう。
少年は目を覚ましました。
人魚は大喜びでした。


そんな様子を見ていた人間達は
少年が目を覚ましたと同時に
人魚のところへ駆けよってきました。

人魚は一瞬びっくりしましたが
人間達は自分にお礼が言いたいのだとわかり
にっこりと微笑みました。

その人間達は人魚を自分達の村で暮らさないかと誘いました。
お礼がしたい、とも言いました。

一人で寂しかった人魚は
その申し出をすぐに受け、村で暮らすことになりました。



暮らし始めて、
しばらくはとても穏やかで平和な日々でした。
人魚にとってもこの村は過ごしやすく良い村だったのです。

暮らし始めてから人魚は
この村がなつかしく感じることがありました。
何故だか理由はわからなくても確かになつかしさを感じるのです。

しかし、人魚は
そんなことを気にするのはやめよう、とすぐに思い直し
助けてあげた少年、
そして村の人間と共に楽しく暮らしていました。



村で暮らし始めて二週間が経とうとしていたある朝、
目を覚ました人魚はどうも空気がおかしいことに気付きました。
何か重苦しいのです。

人魚は嫌な感じがしたので
家から出て外の様子を見ようとしました。

家から飛び出した瞬間
人魚は村人に囲まれてしまいました。
人魚は驚きました。
そして、村人達に問いました。

『何かあったのですか?』

人魚のその問いに対して
村人達は明らかに怒っているようでした。
いえ、怒りというより憎悪の方が正しいでしょう。


人魚は困りました。
それもそのはずです。
人魚は何もしていなのですから。


人魚が困っているのを見て
一人の男がしびれを切らしたように怒鳴りました。

『お前のせいで、村はめちゃくちゃだ!!!!!
 お前は最初からこれが狙いだったんだろう!!!
 俺の息子を助けたのもこれが狙いだったんだろう!!!!』

その男は人魚が助けた少年の父でした。
そして、父に続き少年の母も他の村人達も人魚を怒鳴りつけました。

『あんたのせいでっ!!!!
 私の息子は海獣に襲われちまったよ!!!!
 いきなり苦しみ出したと思ったら海に向かって走り出して
 そのまま現れた海獣たちに食われちまった!!!!
 その海獣たちは村を襲ってきて村は壊滅さ!!!
 生き残ったのはここにいる数人だけだよ!!
 あんた、人が苦しむのを見て楽しいかい??!!!』
『お前のせいだ!!!
 俺達はこれからどうやっていきていけばいいんだ!!』
『この村を襲って何になるんだ!!!』
『私の娘を返してよ・・・っ!!!!』
『お前なんか信用した俺達が馬鹿だった!
 所詮海獣は海獣さ!!!!』
『海獣たちはお前を探して来たんじゃないのか?!』
『お前は海獣たちの仲間なんだろ!!
 白状しやがれっ!!』
『なんでこんなことしたんだっ!!!』

人魚はわけがわからなくなりました。
ただわかるのは
自分のせいで助けた少年も、一緒に暮らしていた人々も、
死んでしまったということ。
そして、海獣達の目的は少年にあげた真珠、
人魚の髪飾りの真珠であるということ。

村人達は今にも人魚を殺しそうな勢いで迫ってきています。
そのうちの一人が持っていた斧を振り上げて
人魚に向かって振り下ろしました。

その時、
人魚は前にもこんなことがあったような気がしました。
人魚はぬれぎぬを着せられて殺されかけたのです。
同じように村人に罵声を思う存分に浴びせられ
この場所で殺されかけたのです。
その後、
逃げ惑い、海まで追い詰められ、海に沈められて殺されたのです。



人魚ははっきりと思い出しました。
昔は人間であったことを。
なつかしいと思ったのは昔暮らしていたからだと。
そして今、人間だったときと同じように殺されそうになっていることを。



人魚は斧を避けました。
必死でした。
避けて安心したのもつかの間で
次は鍬が振り下ろされます。

人魚は恐怖の中で確かに悲しみと苦しみを感じていました。


人魚は思いました。
海まで逃げて死のう・・・と。
光の入らないほど深い海底で永遠に眠ろう・・・と。


人魚は海まで逃げました。
そして、振り向いて追いかけてきた村人達に微笑んで言いました。


『さようなら。皆さん。
 もう一度会えて嬉しかったけれど
 やはりもう一度私を殺すのね。
 でも・・・今までありがとう』


そう微笑んで人魚は海に消えました。
村人達はしばらくそこに佇み
ただ人魚が消えていった方を見つめていました。

人間達は気付いたのです。
人魚の正体を。


それだけで人魚は少し幸せになれた気がしました。




それから人魚は二度と人前に現れることはありませんでした。
海獣たちもいつの間には現れなくなりました。
海底には人魚の髪飾りの真珠が輝いています。
まるで人魚の涙のように・・・

















話し終えた女は
二人の子供の顔を見ました。
二人ともすごく辛そうな顔をしていました。
妹の方は泣いています。

「お・・・おかぁさん・・・そのにんぎょさんはっ・・・
 どうしてそうなっちゃったの・・・?」
「・・・その人魚の宿命だったのかも知れないわね」
泣きながら尋ねる妹に女は穏やかに答える。
少し悲しい微笑みをたたえて。

「僕はその人魚さんの気持ちはわからないけど・・・
 村人さんたちひどいよね!」
「・・・そうかもしれないわね」
辛そうな顔をして兄が言います。
それに女は優しく答えます。
包むように。

「・・・にんぎょさんっ・・・
 やっぱりしんじゃったの・・・?
 ・・・しんじゃうの・・・あたし、イヤ・・・っ!!!」
「人魚さんは悪くないよ!
 死ぬ必要なんてないよ!
 二回も死んじゃうなんてっ・・・可愛そうだよ・・・っ!!
 ・・・全然幸せじゃないよ!!」
「・・・」
兄妹は泣きじゃくりました。
そんな二人を見て母は嬉しく思いました。
優しい子たちだと、本気で感じました。

そして、こう言いました。
「人魚は幸せになったわ・・・」
「な、なってないもんっ・・・!!!」「なってないよ・・・!!!」
「いいえ・・・。なっているわ・・・
 こんなに素敵な子供がいるんだもの・・・」
女は小さな声で微笑みながら言った。
その笑顔は確かに二人を包んだ。



「ねぇ・・・。あなた。
 私は幸せよ・・・」

女は空を見上げて言葉をかけた。
女が見上げる先には
あの人魚が助けた少年の顔があるように見える。



女は真珠のような涙を溢した。









fin.



――――――後書き――――――――――――――――――――――
長く暗いお話でしたがここまで読んでいただきありがとうございました!!
読んでくださったことをとても嬉しく思います!!

この話は落書きとして書いた人魚の絵から始まりました。
色を塗りながらどんどん一人劇のように話を作っていました。それがこの話です。
「人魚姫」といいつつ「姫」というのは全然関係ありませんが・・・;;
えと、題名が「人魚姫」だからといって
本当に「人魚姫」はこういう話だと思っているわけではありませんよ(苦笑)
ちゃんと人魚姫は泡になると思っております(笑)

話がそれましたが、人魚姫どうでしたか?
実は初の短編小説なんのです。
それゆえ、まとまっていない文ですがらるかとしては楽しく書けました。
内容は暗いですが一応最後はハッピーエンドなのでいいかなぁと思っております。
最後人魚が見上げた理由などはご自身のご想像にお任せします!
少年との間に子供が出来ていたのか…それとも別のとか…
少年は生きていたのかもしれないとか…
色々自分でも想像できるわけですが色んな答えがあっていいと思っています。
ですから最後がどうなったのか個人的には皆さんの意見を聞いてみたいなぁーなんて思ったりしますv
よければ教えてくださいませー!!FUYUKOは人の語りを聞くの好きですからー!

・・・まだまだ語りたい気分ですが、長くなってきたのでこのへんで。
よかったら感想などいただけると嬉しいですv
それでは。

本文&後書き:05/02/06
後書き追記:05/11/03
本文ちょこちょこ修正:06/01/22
後書き修正:06/05/15  FUYUKO拝


感想誤字などなど
一言でもいいので感想くださると嬉しいです。